二宮ひかる『誘惑』
二宮ひかる先生の処女コミックス、『誘惑』の表題作です。主催者にとっては『爪』についで思い入れの強い作品ですね。
「誰でも良かったのか、あたしが良かったのか…」二宮ひかる先生の『誘惑』は作品のラストにヒロインの女性が机の上に座って男性を誘惑するシーンで終わるのだが、実はヒロインの女性が誘惑しているのか、それとも男性に誘惑されたのか、じつに微妙である。
話はこんな風に始まる。ある日の朝、ヒロインの南はストッキングが伝線してしまった為に電車を1本乗り過ごしてしまうのだが、(よくある事だが)その1本の差で電車の込み具合は大きく違う。南の片足は行き場を失い、とある男性の股間に行ってしまうのだが、その男性は同じ職場の田崎だった。会社で何事も無かったように振る舞う田崎だったが、帰りのエレベータの中で「この時間帯のエレベータは通勤ラッシュ並」と居合わせた南行った後南にしか聞こえないような小声で「おあいこって事で、机の上に座らせて、悪い足にはたっぷりお仕置き」と言い残して行ってしまう。その時から南は情緒不安定に陥る。その後何もしてこない、何も言ってこない田崎に苛々しながら、「恋愛してるの?」と言う同僚に「欲情してるの」と答える南だった。
そんなある日ちょっとした事件が起きる。田崎が作ったプレゼン資料でクライアントにプレゼンをしていた営業が「田崎さんでないと説明できない」と田崎に泣きついてきたのだ。その資料は田崎が一人で作成したものだ。主催者の感覚で行けば他の人間が説明できるわけがないのだが、兎も角田崎はそれを狙っていたのだ。「他の誰にも取って代われない何者かになる」その衝撃は南の気持ちを動かした。自分も狙われていたのだと。そしてそれを確かめたいと。なぜなら彼女は「貴方じゃなきゃ駄目」なのだから。
この作品は二宮ひかる先生がテイストだけで勝負してきたそれまでの作品の枠を越えて初めて強烈なメッセージを送ってきた作品に思われる。それ故に作品としてはもっとボリュームのある『抱きしめたい』や『まばたき』を押しのけて表題作に収まったのだと思う。そういう意味で金字塔的な作品だと思っている。
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の書影は白泉社様のご厚意で掲載させて頂いています。白泉社様に深く感謝いたします。
Posted: 月 - 6月 7, 2004 at 04:18 午後