田中ユタカ『愛人』第1話(第2回)


前回はもう印象そのものだけで書きましたが、今回はいつもの通りストーリー的な部分から行きたいと思います。

男性向けの作品で最初のシーンが人間の誕生(人造遺伝子人間だけれど)から始まる作品も珍しい。何れレビューするつもりだが、『アンジュ』と言う作品で赤ちゃんが誕生するシーンを描こうとした所、「あまり生々しくならないように」と言う編集サイドからの要望があったそうだ。田中ユタカ先生の『愛人』第1話のレビューをお送りする。
この作品の主人公、イクル(「生」と言う字書いてそう読ませる)はある事情で"他者"と共存した状態に居る。この"他者"の正体は何か良く解らないが、兎も角共存と言っても両者がせめぎ合っている状態で、しかもどちらが勝ってもイクル自身の死に繋がると言う設定になっている。そしてその終末はそう遠くない未来にやって来ると。彼はその精神的な恐怖に耐えきれずにある手続きを行う。『愛人』と呼ばれる人造遺伝子人間、末期患者だけが申請出来る精神的な支えとなる最後の伴侶を手に入れる手続きだ。その手続きはあっさりと受理され、それ自体が彼の死が遠いものではない事を彼に追認識させる。彼の愛人は髪の長い少女で、取敢ず覚醒してから1日は話す事も歩く事も出来ないらしい。しかしそれ故に豊かに表現されるその感情はイクルに何がしかの希望を与える。主催者がこの作品が連載されている当時から一貫してイクルの愛人−アイとイクルの中に潜む他者とが同一視されたような表現がそこかしこに現れるのだが、第1話にも夢の中に他者が登場する。しかしそれはアイであり、その他者の口から「貴方に生きていて欲しい」と言う、彼が誰からも言ってもらえなかった言葉を聞く。
第1話では一貫してイクルは死を、アイは生を表現している、そんな気がする表現が目立つ。イクルの実際の症状がどんなものかは第1話では登場しないが、死を前にした人間の介護は苦しい。それ故にアイの様な明るい性格にケミカルコントロール(生格付けの事らしい)されるのだと思うが、二人の気持ちの変遷をたどりながらこの作品をもう一度読んでいこうと思う。

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田中ユタカ『愛人 [AI-REN]』(1) 白泉社ジェッツコミックス

上記の Comics の書影は白泉社様のご厚意で掲載させて頂いています。白泉社様に深く感謝いたします。

Posted: 水 - 10月 13, 2004 at 09:27 午後