もんでんあきこ『ANGE〜地雷原の天使〜』


「いかされてたんだ。この世の全ての命に支えられて…」

昨日田中ユタカ先生の『愛人[AI-REN]』で生きる事の意味を考えていたら、久々にこの作品を読んでみたくなった。4年前に発売となったこのコミックスは表題作の他に『KOSOVO〜浄化の大地〜』と言う短編の2作が収められているが、どちらもメッセージ性の高い、優れた作品である。両作品を一度にとり上げるのはあまりにももったいないため、1作ずつ取り上げたいと考えている。本日取り上げるのは表題作『ANGE〜地雷原の天使〜』である。
マルクスの『資本論』をきちんと読んだ訳ではないので、主宰者は社会主義、共産主義の正確な定義を分かっている訳ではないと思っている。勿論その反対とされる資本主義に関しても良く分かっていない。主宰者が中学時代に教科書に載っていた極めて優等生的な定義によれば、「社会主義とは全ての人に平等に働く機会が与えられ、働いただけの収入が得られる社会体制、共産主義は全ての人に平等に働く機会が与えられ、平等に富の分配が行われる社会体制」と言う事になっていた。もしかしたら現在では定義が変わっているかも知れない。しかしこの世界にかつて存在した共産主義陣営の政治手法と マルクスの『資本論』で述べられたこれらの手法との大きな違いは資本主義が破綻したときに社会主義が自然発生的に起こり、社会主義が破綻を来したときに共産主義が起こるとしたのに対し、力でもって一気に共産主義に持っていこうとした事、そして資本主義を否定し、共産主義陣営の指導者たちが自分たちの立場を守るために強力な思想統制を行った点である。もっとも、反対とされる資本主義においても共産主義は悪の権化とされ、自由の国の筈のアメリカでさえ赤狩りの嵐が吹き荒れた事は周知の事実だし、日本においても左寄りと言うのは「悪い事」とされる風潮が有り、政府に批判的な記事を載せる某新聞を購読していると「あなたは共産主義か」と罵倒を浴びせる某新聞の勧誘員が居たりするから五十歩百歩のようにも思われる。本作『ANGE〜地雷原の天使〜』の主人公、アンジュ・ライトは共産主義の圧政から自由主義へと変わろうとしている内線の国にやってきたボランティアの女性医師である。彼女は自分の強運を信じてこの地にやってきたのだが、医療物資や設備が不足する中で本来なら助けられた筈の命も助けられずに苦しんでいた。共産主義陣営のトップの名を取りラム・ソル軍と呼ばれる旧政府軍は追いつめられてゲリラ戦を展開、草原や畑に地雷をばらまきその地雷による犠牲は後を絶たない。そんな中でアンジュたちの居た拠点はラム・ソル軍に占拠され、アンジュは捕虜となるが、医者という立場が彼女を守る事となる。旧政府軍の最高指導者ラム・ソルはライフルで狙撃されて負傷しており医者を必要としていたし、30歳以上の知識人を全て粛正してしまった旧政府軍にまともな医者はいない。アンジュはその身の安全を保障され、ラム・ソル軍でも医療活動を行う事となる。そんな中でラム・ソル軍も一枚岩ではない事、ラム・ソルの娘、マンヤーンが政府軍の兵士(彼はアンジュの患者だった)と通じて懐妊していた事、そして「肉親愛はすべての私欲の根源となり、否定されなければならない」と主張したラム・ソルの息子サリの「大切なのは父親のラム・ソルと姉、マンヤーンの命だけ」と言う本音などラム・ソル軍の複雑な内部事情を知る事となる。
ラム・ソル軍が最後を迎えようとしているとき、アンジュは負傷したサリを抱えて地雷原を超えなければならなくなるのだが、アンジュが全身全霊を込めて治療し、助ける事の出来なかった人たちの霊が次々と現れ、地雷の場所を教えるシーンがある。人間というのは生かされているのだと、全ての命に支えられて生きているのだという事をこのときアンジュは教えられるのである。田中ユタカ先生が『愛人[AI-REN]』で示した「逆らい続ける事」と言う価値観とはまた違った価値観ではあるが、この「生かされている」と言う価値観もまた一つの答えのように思う。因に本作にはマンヤーンが出産するシーンがあるのだが、編集サイドから「あまり生々しくならないように」と言う注文が付いたと言うのがなかなかに笑える。子供のいない主宰者は勿論出産に立ち会った経験はないが、どの青年誌も女性の裸をいかに多く出すか、暴力シーンを如何に生々しく描かせるかを競っているような昨今、出産というこの世の奇跡を取り上げた事は大きな意味があると主宰者は思っている。後日紹介する『KOSOVO〜浄化の大地〜』と共に是非ご一読をお勧めする。

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もんでんあきこ『ANGE〜地雷原の天使〜』 白泉社ジェッツコミックス

上記の画像は白泉社殿の御厚意により掲載できました。ここに深く感謝いたします。

Posted: 木 - 3月 10, 2005 at 01:02 午前