氷室冴子『海がきこえる』『海がきこえる 〜アイがあるから〜』

氷室冴子『海がきこえる』、アニメ『海がきこえる』('03.05.24 掲載)

『海がきこえる』イメージ画01

実は『海がきこえる』を知ったのはスタジオジブリの作成したアニメーションを見たのが最初だった。あの時録画したビデオを今でも大事に所蔵している。何と言うか、思春期の色々な男女間のいい意味での恋愛感情の相違や誤解や、登場する女性キャラの魅力が光っていた作品だと思った。それから何年かたって、小生の兄が『海がきこえる』、『海がきこえるII 〜アイがあるから〜』を購入し、貸してくれた。正直言ってジブリの作品とのあまりのギャップに驚いた覚えがある。アニメーションはテレビスペシャルを前提に作られている事もあり、結構良い場面が削られていたり、人間関係が比較的単純化されていたりしていたからだが、反対から考えればあれだけ複雑な人間関係を限られた時間内に、しかも誰にでもに分かるようにするのは大変だった事だろう。もちろん、氷室冴子さんの原作もスタジオジブリが作成したアニメーションも素晴らしいのだが、強いて言えばアニメーションは良い意味で万人受けする作品に仕上がっており、原作はもっと緻密な人間関係が光っているように思う。因にイメージ画は高知城のつもりだけれど、何と言っても著作権フリーの素材なのでどこのお城か分からないのが難点である。知人が高知にいるので、頼んで写真を撮ってもらおうかと真剣に考えてしまった。結局は諦めてしまった訳だけれど。


氷室冴子『海がきこえる』
『海がきこえる』イメージ画02

『海がきこえる』の原作はアニメーションと違って東京での時間軸と高知での高校時代の時間軸がほぼ同時進行のように展開される所が面白い。人間関係なんて「後になって見れば」と言う事は非常に多いと思うのだけれど、そのオンパレードである。里伽子と主人公の杜崎、杜崎と親友の松野、里伽子と松野、そして里伽子とクラスメート達。色々な事があるけれど、後になって見れば全て世は事もなし、と言うのが良かったと思う。そして、原作ではもう一人の登場人物である津村知紗の存在が非常に彩りを添えている。それがこの作品の人間関係を更に複雑にし、そして感情移入しやすい作品にしている。個人的には里伽子にしても津村知紗にしても「こんなやついねえよ」と思ったりするが、そう言う女性像は男性が書く場合が多いのに、この作品では女性が書いている所が面白い。ある意味でその人間関係の複雑さは独特のものがあり、アニメーションしか観た事のない人には是非一読をお進めしたい。

氷室冴子『海がきこえる』書影
『海がきこえる』
氷室冴子著、徳間文庫発行
ISBN4-19-891130-4
Copyright (C) Saeko Himuro 1999

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氷室冴子『海がきこえる 〜 アイがあるから 〜』
『海がきこえる 〜アイがあるから〜』イメージ画

『海がきこえる』の続編として書かれたこの作品は、前作が東京と高知の両方の時間軸を持っていたのと比較して、舞台が東京に限定されている。その中で、主人公の杜崎拓と里伽子の関係、そしてそれに関わる人たち、例えば里伽子の父親と新しい妻、その友人の料理研究家、津村知紗の元彼とその奥さん、そして主人公である杜崎拓のまわりの友人達が織りなす人間模様が非常に緻密に織り上げられている。現実世界での人間関係ですらここまで複雑ではないのではないか(小生が鈍感なだけかも知れない)、と思えてくる事もしばしばである。もちろん読み物として成立するにはそれなりのイベントを発生させる必要がある訳で、そのためには伏線として複雑な人間の背後関係を設定しておく必要があったのだろうけど。でも最終的には杜崎が里伽子の本当の意味での見方だと言う事を証明して見せてめでたしめでたしとなるハッピーエンドは結構気に入っている。全ての事がうまく収まった訳ではないけれど、前作と同じく、良い意味で「全て世は事もなし」なのである。ただ、続編の題名を『海がきこえる』にした以上、やっぱり話題を海に持って行ったラストは、氷室先生の拘りだったんだろうなあと感じた。(因に何故イメージ画が伊勢エビかと言うのは読んでのお楽しみである)その辺の対比も含めて是非2冊続けて読んで頂きたい作品に仕上がっていると思う。

『海がきこえる 〜アイがあるから〜』書影
『海がきこえるII〜アイがあるから〜』
氷室冴子著、徳間文庫発行
ISBN4-19-891131-2
Copyright (C) Saeko Himuro 1999

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『海がきこえる』イメージ03

この『海がきこえる』が一躍有名になったのは、もちろん原作の魅力もあったろうと思うのだけれど、スタジオジブリがアニメ化したと言う話題性も無視出来ないと思う。ところでアニメ版の『海がきこえる』と小説版の『海がきこえる』の魅力は同じようで実は違うと小生は思っている。先ずアニメ版の魅力であるが、それは時間が制限された事もあると思うのだけれど、里伽子を挟んだ杜崎と松野の精神的な葛藤とそれを知らないようで知っている里伽子の反応と言うか、この三人の人間関係にフォーカスしていて話の進み方が非常にシンプル且つコンパクトに纏まっている所が好感が持てる。強いて言えば原作を読んだ後だと里伽子が杜崎拓を好きだと言う事が露骨に分かる演出がちょっと…。と思う所はあるが、それも原作を読んでいなければ充分に楽しめると思う。この点は恐らく賛否両論別れると思う。それに対して原作は、ともかく緻密で複雑な人間関係に魅力があると言って良いと思う。伏線の張り方も上手だし、文句の付けようない内容に仕上がっている。ただ、極めて個人的に言うなら小説版の方が好きであるが、アニメーション版も捨てがたいと言った所か。



アニメ『海がきこえる』スタジオジブリ
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